さて、私は院長からの記事でも書かせていただいた通り、
『競走馬はなぜ走ったり、走らなかったりするのか?』
を究明したいと述べて来ました。
その問題の答えとして、まず一番に思い付くことといえば、それは体調の良し悪しだと思います。
馬は生き物ですから、体調が良ければ走る可能性は高くなり、体調が良くなければ走る可能性は低くなる、というのはごく自然な流れです。
では、体調の良し悪しはどこで見極めたらよいのでしょうか?
毛ヅヤ?
飼葉食い?
歩様?
息遣い?
追い切りの動き?
など様々な要素がありますが、そのどれもが正解とも言えますし、必ずしも正解ではないとも言えます。
もちろん、調教師さん、厩務員さんや乗り役さんなど、厩舎単位で把握できる調子の良し悪しもあると思います。
しかし、そこの精度をさらに上げられれば、もう一段上の仕上がりに近付けることができると思いますし、そうすることで『走る可能性』が高くなるのではないかと私は考えます。
そして、そのお手伝いを私たちができたら、と常々思っております。
もちろん、私たちが全てパーフェクトに状態を把握できるとは思っていません。ですから、私たちも状態を把握する精度を上げなければなりませんし、そのつもりで日々診察しております。
『追い切りが一本足りない。』
『一週前ならここら辺までは作って欲しかった。』
『この状態なら走れる。』
『これ以上続けてても状態は上がって来ない。』
など、私は結構自分勝手に口うるさく言わせていただいています。もちろん、賛否両論あるのは十分承知の上です。それに、あくまで自分の感覚での話なので、全てが正解ではないかもしれません。
しかし、そこを頼りにして下さる厩舎関係者の方々の『馬が走る』ということが、私たちの喜びでもありますし、達成感を感じる瞬間でもあります。
私の叔父弟子にあたる森野先生は、
『聴診器一本で何でもわかる獣医師になることが理想だ。』
と仰っていました。
また、中国には『脈診』という診察法があり、人間の脈に触れるだけでどこを患っているかがわかる、という人がいるとも言われています。
『聴診器一本で何でも』はさすがに難しいかもしれませんが、その域に少しでも近付けるように、日々の診療で感覚を研ぎ澄まして行きたいものです。
2021.7